不動産を所有するのは大人になってからがほとんどですが、成人する前に不動産の名義人となる人も中にはいます。
未成年が不動産を所有することは法的に問題ありませんが、果たしてそれを売却することは可能なのでしょうか。
売却の際の注意点なども合わせて紹介します。
■未成年の不動産売却には法定代理人の同意が必要
結論から申し上げますと、未成年が所有している不動産を売却することは可能ですが、それには法定代理人の同意がなければなりません。
未成年が契約行為などの「法律行為」を行なうことに関して、民法第5条第1項で一定の制限がかけられています。
□契約自体は有効だが、無条件で取り消せる
不動産売却はれっきとした法律行為ですので、未成年者単独で契約をしたとしても、契約を取り消すことが、民法第5条第2項で規定されています。
つまり、未成年者が単独で行った契約も無効ではなく有効なのですが、無条件で無効にできるのです。
□未成年者単独でも行える行為
ちなみに、民法第5条第1項の条文でよく分からない「単に権利を得」とは、友だちから物をただでもらうなどの行為で、民法第5条第1項の「義務を免れる」とは、奨学金の返済や学費の支払い免除などのことです。
未成年者が一方的に有利な法律行為については、未成年者単独でも行うことができます。
□婚姻している未成年者は成年扱い
ただし、不動産売却を希望している未成年者が婚姻している場合、民法第753条に規定されている「成年擬制」により、民法上は成人同様の扱いとなり、単独で契約事をすることもできます。
婚姻経験があればよいので、20歳未満で離婚した未成年も成年擬制の対象です。
□法定代理人は原則として両親
未成年者の契約においては、原則として当事者の両親が法定代理人となります。
両親の一方が他界、あるいは両親が離婚している場合には、一方の親のみが法定代理人でも問題ありません。
両親ともに他界している場合には、両親に代わる親権者が法定代理人となることができます。
当事者が判断能力に乏しい「未成年被後見人」の場合には、未成年後見人(親権者などがなる)が法定代理人となります。
■必要書類は?
未成年者が不動産売却を行なう際に必要な書類は、以下のようになっています。
・登記識別情報もしくは登記済権利証
・親権者(法定代理人)の印鑑証明書(3か月以内に発行されたもの)
・戸籍謄本(3か月以内に発行されたもの)
・住民票(必要な場合のみ)
・固定資産評価証明書
・本人確認証明書(パスポート、運転免許証など)
・親権者(法定代理人)の実印
以上の書類は、所有権移転登記のみを行なう際の必要書類で、それ以外の登記がある場合には追加で書類が必要となります。
■買主が誰と契約するか
売主が未成年の場合、買主の契約相手は2人考えられます。
□契約相手が未成年者
未成年者が単独で買主と契約する場合には、未成年者の親権者から同意を得る必要があります。
同意の方法としては「同意書」が一般的で、以下のような項目を記入するのが一般的です。
・同意する旨
・売却する物件の住所
・売却する金額
・未成年者の住所・氏名
・同意書の作成日
・親権者の住所・氏名・実印
両親が離婚しておらず、両者とも健在な場合には父母両方の住所・氏名を記入します。
あらかじめ同意書を作成せずに契約したとしても、後から親権者の追認があれば売却契約は「確定」します。
□契約相手が親権者
親権者は「法定代理人」となります。
法定代理人は当事者と同様の権利を有しており、法定代理人の意思決定が当事者(未成年者)の意思決定とみなされます。
親権者が直接不動産の売却契約をすることも可能です。
買主からすれば、契約者を未成年にして法定代理人の同意を得るよりは、法定代理人と直接契約をした方が手間もかかりません。
■親権者の一方が売却に反対したら契約できない
親権者は一般的には両親となり、2人いることとなります。
父親が未成年者の不動産売却に賛成している一方で、母親が不動産を売るのに反対していたら、売却はできません。
民法第818条第3項には、親権の主体について以下の条文のように規定しています。
「親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う」
つまり、親権者の一方でも反対していれば、親権は行使できないということになるのです。
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■買主から確認の電話が来たら
買主の中には、売主が未成年と知らずに契約する人もいます。
最初に述べたように、未成年者の契約行為は民法で強力に制限・保護されているため、買主にとってはかなりハイリスクな契約です。
そこで、買主は親権者や法定代理人に、「未成年者と結んだ契約を取り消したいのだが」と催告をしてくるかもしれません。
もし催告が来たら、親権者や法定代理人は必ず何らかの意思表示をしましょう。
仮に買主に返事をしないままですと、「同意した」とみなされ、そのまま契約が確定してしまうからです。
未成年者に不利となるような売却契約の場合には、特に注意しましょう。