不動産売却で気を付けるべき3つの「名義変更」を徹底解説

Aさんの不動産をBさんに売却、あるいは贈与するときには、不動産の名義変更をしておく必要があります。

名義の変更は義務ではありませんが、Aさんに固定資産税の支払いが来たり、Bさんが不動産を担保に借金をしたりができないので、法務局で速やかに手続きをすることをおススメします。

今回は、不動産の名義を変更するケースがいろいろ考えられますが、今回はその中でも特に注意すべき事例をいくつか紹介します。

■相続登記

まずは、不動産の名義人Aさんが死亡して、その相続人がその土地や建物を相続する「相続登記」のケースです。

□遺言がない場合の相続登記は必要書類が多い

相続登記をする際には、通常の名義変更と比較して必要書類が多くなります。

・【被相続人が遺言を残していない場合】

被相続人(Aさん)が特に遺言を残していない場合には、以下のような書類が必要です。

必要書類 取得できる場所 注意事項
不動産の登記事項証明書 法務局 ・正確な地番が分かっていれば、全国の法務局で取得可能
被相続人の住民票の除票 被相続人が住民票を置く市区町村 ・有効期限はない
被相続人の死亡時~出生時の戸籍謄本 被相続人の本籍地の市区町村 ・結婚などで本籍地が変更の場合には、本籍地の役場ごとに請求する

・有効期限はない

相続人全員の現在の戸籍謄本 相続人が本籍地を置く市区町村 ・出生時までさかのぼる必要はない

・被相続人の死亡以降の発行日

遺産分割証明書 申請者、司法書士が作成 ・どの遺産をどの相続人が相続するかを記載

・日付・相続人全員の記名・実印

・法定相続分通りの相続の場合は不要

相続人全員の印鑑証明書 相続人居住の市区町村 ・有効期限はない

・遺産分割協議書が不要の場合は、不要

物件を取得する相続人の住民票 居住の市区町村 ・有効期限はない
対象物件の固定資産評価証明書 不動産のある市区町村(東京都の場合は都税事務所) ・その年の4月1日~翌年3月31日までの登記申請に使える

・【被相続人が遺言を残していない場合】

被相続人(Aさん)が特に遺言を残していない場合には、以下のように遺言を残していないケースと比べて必要書類が少なくなります。

必要書類 取得できる場所 注意事項
遺言書 被相続人の自筆

公証役場

・公証役場で作成した遺言書は検認(家庭裁判所によって実施される保存・確認手続き)が不要

・自筆の遺言書は検認が必要

・有効期限はない

対象物件の登記事項証明書 法務局 ・正確な地番が分かっていれば、全国の法務局で取得可能
遺言者の死亡時の戸籍謄本 遺言者の本籍地の市区町村 ・有効期限はない
遺言者の住民票の除票 遺言者が住民票を置く市区町村 ・本籍地の記載が必要

・有効期限はない

遺言状に「不動産を相続させる」と記載されている相続人の戸籍謄本 相続人の本籍地の市区町村 ・出生時までさかのぼる必要はない

・遺言者が死亡した日以降に発行

物件を取得する相続人の住民票 相続人居住の市区町村 ・有効期限はない
物件の固定資産評価証明書 不動産のある市区町村(東京都の場合は都税事務所) ・その年の4月1日~翌年3月31日までの登記申請に使える

□各種税金が発生する

・相続税

被相続人の財産の合計額が基礎控除額を超えた場合、相続税が発生します。

Bさんが不動産を相続した場合、不動産の価値のみならず、Bさんが相続した金融資産、他の相続人の相続財産も合算しなければなりません。

基礎控除額は「3,000万円+600万円×相続人の人数」で算出可能です。

・相続人以外の相続には不動産取得税

被相続人が遺言書を残しており、相続人以外に不動産を相続させる場合、その人物に対しては固定資産評価額の3%に相当する不動産取得税が発生します。

・相続翌年からは固定資産税

誰が不動産を相続したかに関係なく、相続によって土地建物を取得した翌年の1月1日時点の所有者に対して、1年分の固定資産税が課されます。

・売却すると所得税

相続した土地建物を売ると所得税が課されます。

5年以上所有の不動産の場合は、住民税5%+所得税15.315%です。

□相続人が複数いるときには厄介

相続人が複数存在すると、少し厄介です。

・遺産分割協議書が必要

他の相続人がいる場合には、トラブルを避けるためにも遺産分割協議書を作成しなければなりません。

ただし、自分で遺産分割協議書を作成しようとすると、文句を言う相続人が出て来たり、相続財産の調査が難しかったり、作成でミスをしたりする可能性が高まりますので、弁護士などに作成してもらうといいでしょう。

・勝手に不動産を売られる可能性

また、他の相続人に勝手に不動産を売却される可能性も否定できません。

遺産分割協議書がまとまるまでは、対象物件は一時的に相続人全員の共有財産となるのですが、この状態でも相続人の誰かが勝手に持分を売ることができます。

所有権を取り戻すことはできますが、かなり手続きが面倒です。

・相続人の誰かが死亡したらその相続人の協力が必要

相続人の誰かが死亡したら、死亡者のさらに相続人の協力が必要となります。

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■生前贈与

まずは、不動産の名義人Aさん(贈与者)が生存中に、Bさん(受贈者)にその土地や建物を譲り渡す「生前贈与」のケースです。

□書類を揃えるのが面倒

相続登記ほどではありませんが、生前贈与の登記をする際にも、以下のようにいろいろと必要な書類があります。

必要書類 取得できる場所 注意事項
贈与者の所有権の登記済権利証(登記識別情報) 法務局
贈与者の印鑑証明書 贈与者が住んでいる市区町村 ・発行されてから3か月以内
贈与契約書 当事者が作成 ・実印の押印は必要ない

・添付できない(添付したくない)場合には登記原因証明情報

対象物件の登記事項証明書 法務局 ・正確な地番が分かっていれば、全国の法務局で取得可能
受贈者の住民票 受贈者の住んでいる市区町村 ・有効期限はない
対象物件の固定資産評価証明書 対象物件のある市区町村 ・その年の4月1日~翌年3月31日までの登記申請に使える

□贈与契約書の書き方

必要書類の中で、唯一当事者が作成するのが「贈与契約書」です。

作成したことのない人がほとんどですので、ここでは書き方を紹介します。

必要事項は以下の通りです。

・贈与者の氏名・住所

・受贈者の氏名・住所

・対象物件の所在地・地目・面積・建物の種類・構造・床面積

・契約書の作成日

・贈与する財産

・贈与の方法

□課税される可能性もある

・定期贈与には贈与税

生前贈与については、年間110万円までは非課税というルールがあるのですが、これを利用してあらかじめ取り決めをした上で、毎年110万円を複数年にわたって贈与して税金逃れをしようとする人も少なくありません。

しかしこの場合、1,100万円を分割で贈与するつもりと判断され、贈与税がかかります。

結果的に10年間、110万円ずつ贈与した場合には、特に取り決めもないため非課税です。

・相続開始日から直前3年以内の贈与には相続税

贈与人が亡くなりそうだから慌てて生前贈与をする「駆け込み贈与」も少なくありませんが、相続開始日から直前3年以内の贈与には相続税がかかります。

ただし、相続人や遺贈を受けた人でなければこの限りではありません。

□生前贈与された土地には相続税の特例制度が適用されない

相続税には、被相続人の自宅や土地などの評価を最大80%減額する「小規模宅地等の特例」という制度がありますが、生前贈与された土地はこの制度の適用外です。

相続税がどうしても納められないとき、不動産によって相続税の納税をする「物納」という制度もありますが、生前贈与された不動産で物納することはできませんので、注意しましょう。

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■財産分与

夫婦が離婚によって財産分与をして、それに伴って不動産の名義変更をする際にも、注意点があります。

□必要書類

相続登記や生前贈与と同様に、財産分与をする際にも以下のような書類が必要です。

必要書類 取得できる場所 注意事項
現在の名義人の登記識別情報(登記済権利証) 法務局
現在の名義人の印鑑証明書 現在の名義人が住んでいる市区町村 ・発行されてから3か月以内
財産分与契約書 当事者が作成 ・財産分与のあったことが分かる書類
委任状 当事者が作成 ・現在の名義人の実印押印

・新たな名義人の押印

戸籍謄本 本籍地の市区町村
新たな名義人の住民票 新たな名義人の住んでいる市区町村 ・有効期限はない
対象物件の固定資産評価証明書 対象物件のある市区町村 ・その年の4月1日~翌年3月31日までの登記申請に使える

□住宅ローンが残っている場合は契約違反の可能性

ローンを組んで購入している住宅で、ローン返済中に離婚して名義変更をしようとなると、ローン会社の契約に違反する可能性があります。

不動産の名義と住宅ローンは関係ないので、ローンが残っていても名義変更はできます。

ただし、住宅ローン契約では「名義変更の際には銀行側の承諾を得ること」とあり、承諾を得ずに名義変更をすると、これに抵触するのです。

契約違反となれば、残債の一括返済を求められる可能性もあります。

では、実際に銀行が名義変更を承諾するかどうか、これについてはケースバイケースです。

働いている旦那さん名義でローンを組んでおり、離婚後に専業主婦の奥さんに名義変更するとしても、ローン返済の見込みがないため承諾の可能性は高くありません。

夫婦共同名義(大半は旦那さん名義)でローンを組んでいて、離婚後に旦那さんに名義変更するのであれば、承諾してくれるでしょう。

□離婚後2年を過ぎると財産分与の権利が消滅する

離婚による財産分与については、離婚日から2年以内に限定して相手に請求できます。

逆を言えば、離婚から2年経過してしまうと、財産分与の請求権は消滅してしまいますので、早めに請求しましょう。

□権利証を持ち出しても得にはならない

中には、名義変更をさせまいと、権利証を持ち出してしまう方もいるようですが、決して得にはなりません。

確かに、登記済権利証がないと名義変更はできませんが、事前通知の制度を利用すれば名義変更は可能です。

それでも、現在の名義人が非協力的で事前通知への回答をしなければ、登記申請は受理されない可能性もあります。

ただし、司法書士に依頼をして本人確認情報を作成してもらえば、一気に名義変更ができますので、権利証を持ち出してもさほど効果はありません。

不動産でとても大事な「権利証」なくしても売却できる?

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